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質問31・名前を忘れてしまうんです

Q:

釈先生 内田先生
はじめまして、いつも拝見させていただいております。
先日、名刺交換をして思ったのですが。名刺交換した相手は、次に会ったとき私のことを記憶しているのだろうかと思ったのです。
私としては少しの時間でも世間話をしたりすると記憶に残るのですが・・・
先日も業界でよく知られた方なのになぜか挨拶を交わす程度だと顔を忘れてしまうんです。
受付で「どなた様ですか」と聞いて、「○○です」と言われ、冷や汗が( ̄□ ̄;)
先生方もたくさんの方と名刺交換されると思いますが、覚えている人と覚えていない人の差はありますか。
誰かの記憶に残るようなるにはどうしたらいいのでしょうか。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
(GalleryK_ササイ・32歳・女性)

A:
 
釈:
私、一度会ったくらいじゃ覚えてもらえないこと、多いです。
どうもあまり印象が強いほうじゃないようです。その上、私自身も会った人のことをあまりよく覚えていないことが多いのです。だいたいにおいて、ぼぉ~っと暮らしていますから。
確かに「覚えやすい人」と「覚えにくい人」の差はありますよね。私の場合はどうも「覚えにくい顔」というのがあるようです。歌手で島谷ひとみさんという人がいるでしょ。私、どうしてもこの人の顔が覚えられないのです。テレビで見るたびに、「この人、だれ?」と聞き、子供に「島谷ひとみ。お父さん、前も聞いてたやん」と言われます。
内田先生は年間かなりの方と出会うそうなのですが、以前「また会いたい、と思わない人は覚えられない」とおっしゃってました。このあたりは内田先生から何か追記があるかもしれません。
ということは、相手にまた会いたいと思わせれば覚えてもらえるわけです。ササイさんが人間的魅力を磨くことによって、いつのまにか記憶に残りやすい人になる、この手がよさそうですね。
でも、名刺交換したくらいで覚えているほうが尋常じゃないですよ。現代を生きるために必要なスキルは適度な情報遮断ですから、「少しの時間でも世間話をしたりすると記憶に残る」というのは至極まっとうだと思います。また、ちょっと会っただけでも誰かの記憶に残ってしまうほど印象が強いのもつらいみたいですよ。友人にそういう人がいます(その人は性格が地味なのに、顔立ちが派手なので、よく誤解されるみたいです)。
ところで、『人は見た目が9割』というタイトルの本が売れているそうですが、それは「内面を隠さずにどんどん表現したほうが良い」という価値観の社会になっていることの裏返しですよね。少し会っただけで全部わかっちゃう人ばかりだと、そりゃ「見た目が9割」になっても不思議じゃないです。逆に言うと、少々内面が薄くても、隠すことで奥行きを出すコミュニケーション・テクニックもあるということです。イスラムなんかだと、「隠したほうが良い」という文化をもっています。
ということで、「一度会ったくらいでは、覚えてもらえない」のも自分の特性と考え、「でも、そのかわり長くつきあえばつきあうほど味の出てくる私。なんて素敵なの」と展開するのはいかがでしょうか。

内田:こんにちはササイさま。
私も(ぜんぜん)自慢じゃないけど、人の顔を覚えないことについては人後に落ちないです。
仕事の話を何時間もしたはずの人とすぐ後に会って「先生!」と呼びかけられて、「はて、この人は誰?」と思うこともしばしばです。
先日はK談社のK藤さんの顔を見て、「誰だっけ・・・」と考え込み(芦屋川のベリーニでしこたまごちそうになったのに)、そのときいっしょにいたU氷さんの顔をみても「あ、この人、見たことがある!」(一週間前に二日連続して取材に来たのに)。Y本画伯の個展では、細面の男性に「先生、もうすぐ締め切りですけど」と言われても、ゲラを取り出すまでそれがN経の私の担当記者であるC葉さんであることを思い出せませんでした。
まして、学生の顔と名前が一致することはほとんどありません。
しかし、これは私どもの業界ではよくあることです。
私よりも遙かに若いI川先生はあるとき電車の中で女学院の学生と思しき学生に話しかけられ、そのまま大学までおしゃべりしながら歩いたことがありました。ところが、学生はいつまでも先生にまとわりつき、研究室までついてきて、研究室のドアを開けるとそのまま入ってきました。ずいぶん図々しい学生だなとあきれた先生が「あのね、これからゼミなんだけど・・・」と言おうとしてやっとその子がご自分のゼミの学生だったことを思い出したそうです。
この手の話にはすごいのがいくらもあって、サイバネティックスの創始者ノーバート・ウィーナーは伝説的な「上の空」の人として知られています。
あるときウィーナー一家は隣町に引っ越しました。奥さんはどうせウィーナー博士は引っ越したことを忘れてしまうだろうと朝大学にでかける博士のポケットに新住所を書いたメモを押し込みました。案の定、博士は上の空で大学からもとの家に戻ってきてしまいました。ベルを鳴らしてもドアがあかないので、博士ははたと昨日引っ越ししたことを思い出しました。そしてポケットから引っ越し先の住所を書いたメモを取り出すと、そばを通りがかった少女に訊ねました。「ねえ、君、この住所どこだかわかるかな?」
すると少女はにっこり笑って答えました。
「ええ、これから連れて行ってあげるわよ、パパ」
ウィーナー博士に比べれば、私どもの「上の空」道の前途はまだまだ遼遠であります。

コメント (1)

gallery_kササイ:

釈先生!内田先生!ありがとうございました。とても気が晴れました。自分のド忘れや受付婦思い出せない症候群では「若年性健忘症」ではないかと心配するぐらいでしたが、先生方のエピソードを読んで苦笑するとともに上には上がいるもんだと思いました。「長くつきあえばつきあうほど味の出てくる私」の形成に努力しながら「上の空」道にも励みたいと思います。あぁ~だけどまたあの人が来るのが怖いよ・・・顔と名前が一致しない人が。

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2006年01月23日 22:40に投稿されたエントリーのページです。

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