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質問67・お経の聞かせどころについて

Q:
釈住職様・内田樹様
いつも楽しく拝見させていただいております。
お経について教えていただきたいと思いメールさせていただきます。
先日、友人の一周忌に参加する機会がありました。
お寺の本堂で約一時間読経が行われたのですが、初めの20分くらいは故人のことを思い出し、いろいろな感慨にふけっておりました。
そのうちに想いは普段の私事のことに移り、読経の続く中、日常の些事につきあーでもない、こーでもないと考えてしまいました。
意味がわかれば有り難いお経とは思うのですが、知識がないために無為な時間を過ごしてしまうことになりました。
お経について一から勉強し、始まりから終わりまで理解しようとするのはとても難しいとは思いますので、せめてより大切な所だけでも意味がわかればと思っております。
そこで質問なのですが、お経を読む側としてはお経の聞かせどころというものはあるのでしょうか。
また、それを聴く側にはそれを感知し、理解するのに必要な予備知識はどういうものがあるのでしょうか。
さらに質問なのですが、これまでは漠然とお経というものは故人が無事に成仏するのに必要なものと考えており、お経とは故人に対するメッセージととらえていたのですが、それでよろしいのでしょうか。
われわれ生きているものに対するメッセージも含まれているのでしょうか。
今後も同様の機会が多々起こりうるとは思いますのでよろしくお願いいたします。 
 (45歳 男性)

A:
 お経は仏教の教えを記述したものですから、基本的には私たち生きている者に対して説かれたものです。読んでみると興味深いことがたくさん書いてありますよ。
 でも、日本仏教では、儀礼性を重視する傾向が強く、中国で翻訳されたものを日本語に翻訳せずにそのまま読誦することとなってしまいました。聞いていてもわからないはずですね、ははは。
読経という行為は、「経典を読誦することは身心の修行である」「お経を読むことは功徳になる」「読経は仏様の徳を讃えることになる」「功徳を亡くなった方へと廻向する」「すべての生命の安穏を祈る」などと思想展開し、宗教儀礼として確立していきました(羅列したのは、宗教儀礼における経典の読誦をどう意味づけるかが、宗派によって相違するからです。ちなみに浄土真宗では、「仏の徳を讃嘆すること」と考えます)。ですから、決して「故人へのメッセージ」というわけではなく、「故人を手がかりとして、この場にいる人々、生きとし生けるもの、大いなる生命の根源である仏様、すべてへ向けて」と考えたほうがよいと思います。 
 さて、“お経の聞かせどころ”ですが、「ストーリーの山場」「有名な箴言部分」「仏教思想のエッセンス」などが内容的な聞かせどころ(って言うのかなぁ)でしょう。例えば、『阿弥陀経』の「六方段(世界に満ち満ちる諸仏が阿弥陀仏の徳を讃えるというダイナミックなシーン)」なんか、私はぐっときます。
また、読経という行為自体の聞きどころとしては、「難しい節回し」「独吟の部分」「大勢の僧侶が一斉に声高く読む部分」などがあると言えそうです。例えば、浄土宗のお坊さんたちによる「往生礼讃」は日本声楽の粋だと思えるときがあります。あるいは、『観音経』の「念彼観音力」と繰り返されるあたりなどは、個人的に好きです。「ねんぴかんのんりき」という声を何度も聴くのがなんとも言えなくて…。また、あまり身近ではありませんが、チベットやモンゴルの「倍音声明」などは、大変すばらしいです。
お経の内容に興味があるのでしたら、たいていの経典は、現代語訳や解説書が出版されておりますので、ご自身で一度お読みになることをお勧めします。読んでわかりにくいところがあれば、お坊さんに聞いてください。きっと丁寧に教えてくれますから。もちろん「持仏堂」への質問も大歓迎です。 
お経の旋律や声明(しょうみょう)に興味があれば、予備知識などいりません。全身のセンサーを全開にして、その場を感じてください。
友人のご法事もひとつの仏縁です。ぜひこの機会に、お経への興味を大切にして、自分なりの「聞きどころ」を発見してくださいね。
 ところで、「そのうちに思いは普段の私事のことに移り、読経の続く中、日常の些事につきあーでもない、こーでもないと考えてしまいました。」というのは決して無為ではなかったかもしれません。法事は、日常の点検をする場・時間でもありますから。

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2007年12月15日 10:04に投稿されたエントリーのページです。

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